老いても手をつないで歩いていける人がいる

兼光さんは松山で生活を始めるタイミングで、「夏井&カンパニー」という会社を作りました。それは私たちにとって、いわば終活のための会社でした。これまでも俳句の会社を作ったりしていましたが、それは若い人たちに渡して、これからは二人でできる量の仕事をし、穏やかにのんびり暮らしたいと思ったのです。孫と遊ぶ時間もほしいですしね。

ところが不思議なことに、会社を立ち上げたのとほぼ同じタイミングで、テレビ番組『プレバト!!』に出ることに。そこからどんどん忙しくなって、怒濤のような生活が始まりました。

『プレバト!!』のように芸能人が出演するテレビ番組は、それまでの私にとっては、まったく縁のない世界。CMや番組を作っていた業界人の兼光さんがそばにいてくれるだけで、どれだけ精神的に楽なことか。しかも、彼も俳句をやり、50を過ぎてから新人賞を取るような実力がありますので、俳句に関する相談をしても、的を射た答えが返ってきます。

その後、長男夫婦や娘も会社を手伝うようになり、そのうち兼光さんの妹さんやその娘さんも松山に移住し、今や「夏井&カンパニー」は家業となっています。子どもたちや孫たちも、兼光さんがいなかったら自分たちの将来はどうなっていただろう、というくらい感謝しています。

離婚したときには、まったく想像もしていなかった生活です。本当に再婚してよかった。この先、老いていったとき、手をつないで歩ける人がいる。これはなにより幸せなことだと、しみじみ嚙みしめています。

 


『夏井いつきのおウチde俳句』

家の中のモノを題材に俳句の作り方を教える初心者向けの本。リビングや台所、寝室などの場所ごとに、「食材」「日用品」「家事」「家族」「眠れぬ夜」など、俳句のタネを探すコツを伝授する。一般の方から募集した俳句を例に、初心者にありがちなクセや凡人によくある発想などを徹底解説