出口 いえいえ、そんなことはまったくないと思いますが。(笑) でも、アダム・スミスが指摘した大学の問題点は、250年近く経った今でもそのままですね。

大竹 どうやってモラルを保つのかというのはすごく大事な話です。大半の教員はちゃんとしたことをやりたいと思っていて、それを実践している人が多数派です。けれど、いつの時代にも例外はいる。中には手を抜いている人もいるわけです。しかし、そこだけが目立ってしまうのは問題で、どうコントロールしていくかは何年経っても同じだと思います。

 

エピソードで判断してはいけない

出口 アダム・スミスは「エピソードで判断してはいけない」と言っているように思います。たとえば生活保護でも悪用している人のエピソードはよくアピールされますが、データを見れば悪用している人は数パーセントです。むしろ、本来、生活保護を受けてもいいのに冷たい目で見られるから我慢している人のほうがはるかに多い。アダム・スミスは繰り返し、悪いエピソードはよく取り上げられるけれど多数派ではないと書いていて、エビデンスで多数派か少数派かを考慮しなければということを教えてくれている気がします。

大竹 おっしゃる通りですね。また、悪用している人を相手に社会のシステムを作るのは良くない。

出口 社会のシステムは大多数の人にとってうまくまわるようにすべきです。そういう意味では、アダム・スミスは全体の整合性をとるように常に目配りをしていて、全体最適を考えていた人のように思います。

大竹 社会全体の利益について、何度も強調していますね。さらに、損をする人もいるということはつねに考えていて、一部の例外はあるかもしれないと書いた上で、その対応の仕方まで考えています。

出口 だから『国富論』は長くなったんですね。(笑)

※第3回は11月予定です

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