撮影:ヤマザキマリ
引きこもり期間、動画配信サイトで毎日映画を観るようになったというヤマザキさん。何度も見ているはずの戦前から戦後にかけての古い作品に対し、今までとは違った印象を受けるようになったと言います(文・写真=ヤマザキマリ)

終戦から4年後のラブコメ

ここ数ヵ月の引きこもり期間、毎日映画を観るようになった。

最初のころは動画配信サイトで見逃していた話題作などを選んでいたが、気がつくと、すでに今までに何度も繰り返し見てきたような馴染みの作品を、また改めて見直すようになっていった。特にはまっているのは、戦前から戦後にかけての古い作品だ。『自転車泥棒』や『鉄道員』、『無防備都市』といったイタリアのネオレアリズモから始まり、途中からは小津安二郎や黒澤明といった邦画づくしとなった。

例えば、昭和28年に公開された小津の『東京物語』など、さまざまなシーンのセリフを暗記しているくらい何度となく見てきた映画だが、疫病によってメンタル面での自由が拘束されている今の状況下で観賞してみると、今までとは違う印象がある。

かつては、戦後の日本人の家族の有様を記録のようなフィクションとして淡々と捉えたものと受け止めていたが、今回は、復興という前向きな動きの裏側で壊されていったものへの示唆が強く感じられた。怒濤を越えて生き延びてきた人々が、もう家族という小規模単位の群れではなく、世間という外側の組織への属性を優先する、時代の過渡期を生きる日本人の心理描写が、ひとつの教訓のように生々しく伝わってきた。

そして、終戦後の食料難と経済的苦境がまだ続いていたはずなのに、人間や社会について客観的に分析している映画作品がつくられていたことに、驚きのような励みもあった。

木下惠介監督、原節子主演の『お嬢さん乾杯』は昭和24年公開の映画だが、画面からはみじんも当時の社会の荒んだ様子が感じられない。没落した上流階級のお嬢様と、成金自動車修理工場経営者の男性のもどかしい恋愛という設定自体にはこの時代らしさが反映されているが、内容は典型的なラブコメである。

この映画の上映時、映画館は多くの人々の笑い声に包まれていたはずだ。日本中のあちこちを焼け野原にした戦争が終わってから、たった4年後。にもかかわらず、あの前向きさは一体どういうことなのか。