朗らかな笑顔の伊藤久男(写真提供:古関裕而の長男、古関正裕さん)
NHK連続テレビ小説『エール』で、窪田正孝さんが演じる主人公・古山裕一のモデルは、名作曲家・古関裕而(こせきゆうじ)だ。今週スポットが当たっているのが、山崎育三郎さん演じる佐藤久志(モデルは歌手の伊藤久男)。終戦による実家の没落後、酒に溺れ、自堕落な生活を送っている久志を、再び音楽の世界へ引き戻そうと奔走する裕一の姿が描かれている。古関の評伝を書いた刑部芳則さん(日本大学准教授)によれば、劇中、久志が歌う「夜更けの街」は、実際は映画の挿入歌として菊田一夫の詞に古関が曲を書いたものだという。「栄冠は君に輝く」の誕生秘話と併せて、当時を振り返ってみるとーー

※本稿は、評伝『古関裕而 流行作曲家と激動の昭和』(刑部芳則・著/中公新書)の一部を、再編集したものです

菊田一夫からの依頼

北村有起哉さんが演じる池田二郎のモデル・菊田一夫と古関は、ラジオドラマの脚本家と劇中音楽の作曲家としていくつもの人気作品を生み出していたコンビである。

その菊田一夫から、大阪で新国劇「長崎」をやるため、劇中で女給が歌う曲を急いで作曲して欲しいとの依頼が届いた。歌詞を見ると、古関が昭和10年頃に訪れた長崎の異国情緒溢れる景色が浮かんできた。

雨の長崎の雰囲気を曲に反映させるため、伴奏が和音構成音で装飾的につくられている。間奏には「マダム・バタフライ」のハミングコーラスを入れてムードを盛り上げた。歌は3拍子、間奏は4拍子という独特な旋律に仕上げている。