映画化されて大ヒット

「雨のオランダ坂」を歌った渡辺はま子は、明治43年(1910)10月27日に神奈川県横浜市に生まれた。昭和8年に武蔵野音楽学校を卒業すると、横浜高等女学校の音楽教師を経て、同年に歌手デビューした。彼女のヒット曲は、昭和13年の「支那の夜」(作詞・西条八十、作曲・竹岡信幸)や同15年の「蘇州夜曲」(作詞・西条八十、作曲・服部良一)など、中国のエキゾチックなムードの作品が多い。そうした意味で「雨のオランダ坂」は最適であった。

菊田の原作「長崎」は、昭和22年1月に松竹映画「地獄の顔」(監督・大曽根辰夫)として映画化された。主演は水島道太郎で、相手役には映画の主題歌を歌ったディック・ミネが出演した。この映画のディック・ミネの出演料は、新築の一軒家が建つほどであったという逸話が残っている。

この映画では、渡辺はま子「雨のオランダ坂」と伊藤久男「夜更けの街」(菊田と古関のコンビ)のカップリングに加え、テイチクのディック・ミネ「夜霧のブルース」、ディック・ミネと藤原千多歌「長崎エレジー」(ともに作詞・島田磬也、作曲・大久保徳二郎)の4曲が作られ、そのすべてがヒット盤になるという珍しいことが起きた。

刑部芳則さん