看護師に車椅子を押されて子ども病棟に戻ると…

それでも、ふみちゃんは私にとっては、大切な友達だった。泣かないときのふみちゃんは、ただ暗いだけのふみちゃんで、その暗いふみちゃんだったら、私はなんとか付き合うことができた。私とふみちゃんは、同じように注射をされ、同じように検査を受け、それぞれが手術を受け、そして集中治療室に入った。ここから、私とふみちゃんの関係性が逆転した。

ふみちゃんの快復は目覚ましいものだった。あっという間に集中治療室から出ると、子ども病棟に戻っていった。しかし、私はなかなか集中治療室から出ることができなかった。少し離れた場所のベッドに寝ていたおじいちゃんも、その次に寝ていたおばあちゃんも、いつの間にかいなくなったというのに、私はいつまでも出ることができない。集中治療室のガラス窓の向こうから、母と兄が手を振るばかりで、誰にも会うことができないし、座ることさえできない。ようやく子ども病棟に戻ると決まったときには、歩行すらできなくなっていた。子どもながらに、とてもショックだった。はじめて車椅子に乗った。看護師に車椅子を押されて子ども病棟に戻ると、入り口のあたりでふみちゃんが、私が戻るのを待っていた。

ふみちゃんは、私の車椅子の周りをスキップして見せた。明るい表情で、キャッキャと笑いながら、ふみちゃんは、それまで見たことがないほど楽しそうにしていた。どう? 私は歩くことができるし、スキップだってできるんだよ……ふみちゃんの表情はそう物語っていた。私はがっくりとうなだれて、その日はふみちゃんと話をすることができなかった。

私はそれから1週間ほどリハビリをして、ようやく歩くことが出来るようになったけれど、すでにふみちゃんは退院し、残っていたのは、なんでもかんでも噛むくせがあったふみちゃんの歯形だけだった。私のハローキティーのトランプに、くっきりと残ったふみちゃんの歯形。ババ抜きをすると、ふみちゃんは決まってジョーカーを噛んだ。

私は、ふみちゃんに負けたのだと思った。そしてその日を境に、何をされても大声で泣きわめくようになり、医師も看護師も両親も、あの強かった理子ちゃんに何が起きたのだと、大いに驚いた。