しかし、どろぼうたちには、わたしのヒヒーン、犬のワンワン、ねこのニャーン、にわとりのコケコッコーがこんぐらかったんで、声の中身を区別できなかったんだな。
わたしたちは、そこでひと休みしてブレーメンに行くことにしようと、どろぼうたちが残していったものを食って寝た。あんまり寝られなかったな、なんどもにわとりが鳴いたもんでな。
つぎの日になっても、だれも動きだしはしなかった。てんでに、若いときのことを話しだすからだ。
「ねずみはよ、でっかいほうがとりやすいんだよ、体が重いからな。おれは、若くてすばしっこいのばっかりねらったよ。これは自尊心の問題だからな」
とねこがいっているのに、にわとりは、
「コケコッコー」
とわめきつづけ、犬は、
「忠誠心というものは、われわれによって完成したわけだが、忠誠心は無私であることを要求するわけで、無私かどうかは、目を見りゃわかるわけで……」
と、しわがれ声でいつまでもつづける。わたしは、
「労働をしながら詩人でありつづけることができたのは、ろばだったからだな。自分が詩を感じるだけでは人間と同じだが、わたしは、わたしを見た者に詩を感じさせねばならん。これは、耳の動かしかたにコツがあるんだな」
といったが、だれも聞いてはいなかった。耳が遠くなっちまっていたんだ。
わたしたちは、そこで余生を送った。
それでも、わたしたちは、ときどき、
「ブレーメンはどこだ」
っていうのを忘れなかったがな。
にわとりだって、「コケコッコー」といっていたが、あれは、「ブレーメンはどこだ」っていっているつもりなんだ。
ブレーメンってのは、あの世のことなんだな。家を出るときから、みんなわかっていたにちがいない。