『たちどまって考える』(ヤマザキマリ・著 中央公論新社)より  

漫画を描く合間を縫って、常に国内外を旅してきた漫画家で文筆家・ヤマザキマリ氏。1年のうち半分を東京で、残りを夫の実家であるイタリアで過ごしてきたが、コロナ禍では約10カ月東京の自宅に閉じこもることを余儀なくされてきた。しかしそのヤマザキ氏曰く、この自粛期間を「人間としての機能を鍛えるべき時期」と前向きにとらえているそうで――

※本稿は『たちどまって考える』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋、再編成したものです。

たちどまることを余儀なくされて

私は家にこもって漫画を描く仕事をする一方で、国内外のいろんなところをこれまで転々と訪れてきました。旅というインプットがあってこそ、漫画などでのアウトプットができていたので、一ヵ所にずっと止まっていると栄養失調の危機感を覚えてしまうのです。

パンデミックで旅に出ることを封じられ、私はたちどまることを余儀なくされました。そんなふうに行き場をなくしたエネルギーをもて余しているのは、この状況下で私だけではないはずでしょう。

では、そのエネルギーをどう生かせばいいか。

私は外出自粛が始まってしばらく経ったあと、これはこれで普段考えたり実践できないことを経験するチャンスであるということに気がつきました。