「恋は理屈ではなく感情で落ちるもの。人妻であろうと母親であろうと、人を好きになる気持ちをコントロールすることはできません。だからこそ私は『恋母』を描かなければと思ったのです」

母親の不倫を推奨するのか

好意的な反響ばかりではなく、「母親の不倫を推奨するのか」といったお叱りの声も少なくありませんでした。私はどんな恋であろうと人の恋愛に他人が口出しをするものではないと考えていますが、基本的に不倫には反対です。倫理に反するからというより、恋の代償が大きすぎるからです。

そうはいっても、恋は理屈ではなく感情で落ちるもの。人妻であろうと母親であろうと、人を好きになる気持ちをコントロールすることはできません。

だからこそ私は『恋母』を描かなければと思ったのです。フィクションには人の欲望に歯止めをかける力があります。たとえば格闘技を描いた作品を通して読者がストレスを発散すれば、それは暴力行為に抑止力がかかることを意味します。不倫願望もまた同じでは。

疑似体験を通して、ワクワクしながら心のガス抜きをしていただきたいと考えました。現実的に恋愛相手がいて、今まさに禁断の果実の甘い誘惑に身をゆだねてしまおうかというギリギリのところにいる人には、「母親が恋愛に踏み切るとこんなに酷い目に遭いますけれど、どうします?」と問題提起したつもりです。

『恋母』は、10年前に夫が失踪して以来、一人で息子を育てている石渡杏と、弁護士の夫を持つセレブママ・蒲原まり、一流企業に勤務するバリキャリママ・林優子の3人が、息子の通う私立の名門高校で偶然出会うところから始まります。

当初は、ちょっと優柔不断なところはあるけれど生真面目な杏と、一見、天真爛漫に見えるけれど正義感の強いまりの2人で物語を展開させようと考えていました。でもたまたま観た山田太一さんのドラマ『想い出づくり。』は3人の女性の話で、それがとても面白かったので、私も3人の女性を登場させることにしたのです。