杏とまりはなんだかんだいっても子ども命の母親ですが、世の中には母親=子ども命、という世間の価値観に苦しんでいる女性もいます。そこで優子は自分には母性愛が欠落していると自覚し、そんな自分を責めているという設定にしました。

優子は主夫である配偶者を裏切り、部下である赤坂との関係に走ります。これは昭和の夫が専業主婦である妻に対して行っていた浮気の構図を男女を逆転させて描いたもの。女性が経済力を持つようになって恋の図式が変わってきたということを伝えたかったのです。

弁護士で高収入の夫とセレブ生活を送っていた蒲原まりは、落 語家の丸太郎に惹かれていく。『恋する母たち』6巻より ©柴門ふみ/小学館

 

性愛を含む女性の生き方に正解はない

連載中に心がけていたのは、事件をたくさん盛り込むことでした。

「ええっ!」「大ピンチじゃない!」と読者をハラハラさせ、「これからどうなるの?」と引き込んだところで「この続きはまた来週」となる。これを理想と掲げていたのです。

でもそれ以上に大切なのは、一つひとつのエピソードによって登場人物が味わう切なさや気づきを読者の心に残すこと。作品が説得力を備えるために必要なのは、細部のリアリティ。その一方で大きな設定では妄想力を駆使します。

3人ともグッとくる男性に出会い、その男性から交際を求められるというシチュエーションなのですが、それ自体がある種の夢物語なのです。こうしたことからリアリティとファンタジーのバランス配分をするのに一番苦心しました。