1941年、日本青年館で行われた「伊太利歌劇の夕べ」で「カヴァレリア・ルスティカーナ」のローラ役を演じた金子(一番左/写真提供:古関正裕さん)

やはり僕の奥さんだねえ

「朱金昭」はフレデリック・ノートン作曲のミュージカル、「トウランドット」はプッチーニのグランド・オペラで知られる作品だが、古関は既存のものに負けないものを作曲した。また東郷の新作「チガニの星」は、ハンガリーのジプシー物語であり、ヴァイオリンのソロとチェンバロを使った意欲的な作曲を試みている。

この放送劇では夫婦ともに嬉しい体験をした。それはNHKのスタジオで金子が第一声を発したとき、オーケストラの団員から「ホーッという歓声」が上がった。古関は「私はうれしかった」という。そして自宅へ戻る車中で「NHKの第一スタジオで、あれだけの声の人は初めてだったよ。やはり僕の奥さんだねえ」と褒めている。古関がオペラを作り、金子がそれを歌う。古関のクラシック音楽は、夫婦揃って初めて成り立つことがわかる。

だが、金子は古関や子供たちを支えるため、声楽家になる夢を諦めた。その悔しさは昭和27年から投資信託に向けられた。「株は芸術」というコラムをはじめ、雑誌上で経済人と対談したり、投資術を語ったりしている。古関も自分たちのために声楽家としての道を諦めた金子の気持ちを汲み取り、彼女の投資信託を温かく見守った。

1952年頃の古関裕而と金子(写真提供:古関正裕さん)
古関夫妻の長男・古関正裕さんの著書『君はるか 古関裕而と金子の恋』集英社インターナショナル