彼らから見たらわれわれがニューカマー

ヤモリがいる家に暮らしたいとずっと思っていた。自分の住む空間と外界を遮断するべきではないと私は考えている。だからその時住んでいた平家は理想に近く、現在の家もその延長線上にある。

ヤモリやアシダカグモ以外に同居している生き物たちは、今も昔もアリンコ(子どもたちの食べちらかしをせっせと掃除してくれている)、ハエトリグモなどのカリュウドグモ系の蜘蛛たち、庭に出れば、ダンゴムシ、ワラジムシ、ジグモ、アゲハの幼虫、庭仕事の敵イラガの幼虫、夏にはセミやバッタやカマキリもやってくる。秋には秋の虫。戸の陰には名前の通りトカゲとカナヘビ。水槽に入れていたヒキガエルのオタマジャクシがカエルになって勝手に歩いている。アシナガバチが巣を作れば、幼虫が増えた頃を見計らって、とって食べる。B天池から捕ってきた亀のカメちゃんもいる。

さらには1メートルを超えるアオダイショウが床下に住み着いていて、年に1回ほど確認した。引っ越したゲタの家にもアオダイショウが2匹いたのだが、ニワトリのたまごを盗むので、捕まえて食べてしまった。そうしたらネズミが増えた。

飼っていた生き物は、フナ、トウキョウダルマガエル、エビ、ザリガニなど、雨樋(あまどい)の排水をタルに受けてそこに放し飼いにしていた。いつでも逃げられるはずのトウキョウダルマガエルは定住していたし、フナがときどき近所の猫に食われてきれいに骨だけになって放置されていた。夏はノコギリクワガタもカブトムシもたっぷり捕って飼っていた。すべて天然の横浜産。

子どもたちは幼いとき、同居している生き物たちをオモチャにした。

「俺の友達だからやめてくれ」と私はいった。

「友達なの?」

「アシダカ君とヤモリは重要な友達。ゴキブリは敵」

ゴキブリとは武士道に則って闘う。手にする得物(えもの)は丸めた新聞でなくてはならない。それらすべての生き物は我々が引っ越してくる前から、家や周辺地域に何代にもわたって住み続けている先住民である。彼らから見たらわれわれがニューカマーだ。誰が主人か彼らに意見を求めたら「こっちは代々ここに住み続けてるんだぜ」と言うだろう。