近くて遠い小さな故郷

夏は耐え難い暑さだったが、それでも、3人の子どもたちをこの平屋で授かり、地域にも溶け込み、家族も我が家として愛着を持つようになっていた。だが、大家さんが亡くなって、相続の問題がうまく解決できずに、平屋は取り壊すことになった。われわれは追い出されるように、2009年、現在住んでいるゲタの家に移った。

平屋は結局、取り壊されることなく、今は大家さんの親戚が住んでいる。散歩や買い物の行き帰りに、ときどきかつて住んでいた平屋の前を通る。私のお気に入りの、小さな生き物が蠢(うごめ)いていた一角が、モルタルで塗り固められたりしている。服部(はっとり)家の初期繁殖年代記が詰まった平屋は近くて遠い小さな故郷となった。

10代の後半から20代の頃はモテたいと強く思っていた。心ときめく異性と家庭をつくりたいという本能が強かったのだと思う。でもモテなかった。自分がイメージするようなかっこいい人間になりたいと必死に考えて取り組んだのが、山登りとものを書くことだった。

モテるために……。

友人時代の服部さんと、妻になった小雪と、三人の子どもたちからモテるために……。

うまく繁殖する方法をそれしか知らなかった。

ここに記すのはそんな私の繁殖奮闘記(犬猫ニワトリを含む)である。