もう二度とハワイには来ないだろう
しばらくすると、両手に紙袋を提げたアケミが戻ってきた。そろそろお昼時、おなかもすいてきた。私はアケミに、「下のレストランでお昼を食べよう」と声をかけてみる。すると、「もう食べてきた」、それがアケミの返事だった。
私の昼食を買ってきてくれた様子はない。私だったら、ホテルで動けなくなっている友達の昼食くらい買ってくるのに。そんな私の気持ちを察したのか、アケミは、「買ってきてあげようかと思ったけど」と言ったが、その後に続く言葉はなかった。
ハワイを発つ日、私は腫れて靴の半分までしか入らない足を引きずりながら歩いた。飛行機の中で、もう二度とハワイには来ないだろうと思った。ハワイが悪いわけじゃないけれど……。
帰国後、アケミと会うことはなくなった。しばらくアケミのことを忘れていたが、ある日彼女から封書が届く。中には手紙と写真が入っていた。写真を送ってくれるのはうれしいけれど、手紙を読んで複雑な気持ちになった。「旅行楽しかったね、また行こう」、そんなことが書いてある。あんなに気まずくてお互い嫌になっていたのに。どういうつもりでこの手紙を書いたんだろう。
写真を送ってくれたからには、私もアケミの写真は送るべきだろうか。けれども手紙はどうしよう? 「楽しかった、また行こうね」なんて書けない。悩んだ挙げ句、手紙は書かず、何枚かの写真だけをアケミに送った。彼女は気分を害しただろう。でもそれでいい。もう会うつもりはないから。
アケミとはそれなりに仲が良かったが、よく考えると本音で話せる友人ではなかったように思う。旅行は誰かと行くものと思っていたが、もう中途半端な友人とは行かないことにしている。
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