沢山美果子『性からよむ江戸時代 生活の現場から』岩波新書 820円

「いのち」が不確かだった時代

本書ではほかにも、小林一茶が年若い妻との性生活を事細かに記した日記から、実子を持つことと家を守り継ぐことの切実な関わりを探りました。また、医師の診察記録から、お産と堕胎の事情を明らかにし、身を売る女たちのことを年齢や出自の記録から探る章もあります。最終章で「江戸時代の性」の全体像を描いていたとき、コロナ禍に見舞われてしまいました。

人とも会えず、大学の図書館も使えず、不安と孤独のなかで原稿に向かう日々。「そんなときは散歩だよ」と友人に言われ、これまでゆっくり歩くこともなかった倉敷の家の近所を、夕方に散歩するようになりました。そうして机を離れる時間を持つと、今まで見えてこなかった大事なことにも気づきます。「いのち」が不確かだった時代の人間の弱さや生きることへの切実さは、コロナ禍の現代にも通じるものでしょう。

歴史学の分野で、性と社会や国家の関わりが重要な研究対象とされるようになってから、まだたった20年。各地で埋もれている史料もたくさんあるでしょう。これからも女たちの声を発掘し、紹介していきたいと思います。歴史を学び、史料と対話することは、現代の私たちの生き方を見直すことにつながる、と信じながら。