知識の伝達というよりも欲望の変形
ゲンロンはこの10年間、「誤配」によって「観客」を増やすという地味な活動を行なってきました。それは、同じ10年間、とりわけこの5年間ほど、日本のリベラル知識人が活動を大きくする=スケールすることばかり考え、足下の観客=支持者を失っていったことに対する、ぼくなりの返答でもありました。
いまの日本に必要なのは啓蒙です。啓蒙は「ファクトを伝える」こととはまったく異なる作業です。ひとはいくら情報を与えても、見たいものしか見ようとしません。その前提のうえで、彼らの「見たいもの」そのものをどう変えるか。それが啓蒙なのです。それは知識の伝達というよりも欲望の変形です。
日本の知識人はこの意味での啓蒙を忘れています。啓蒙というのは、ほんとうは観客をつくる作業です。それはおれの趣味じゃないから、と第一印象で弾いていたひとを、こっちの見かたや考えかたに搦め手で粘り強く引きずり込んでいくような作業です。それは、人々を信者とアンチに分けていてはけっしてできません。