老後ならではの焦燥感から脱するには

私が今度生まれたら何をしたいか、ですか?  次の人生では、ぜったい相撲部屋のおかみさんです。すでに4歳にして相撲オタクでしたから(笑)。つまり、「今度生まれたら」という言葉のなかには、その人が小さい頃から抱いてきた夢への思いがあるのだと思います。

夏江は、かつての進学や仕事、恋愛、結婚生活を振り返り、「あのとき別の道もあったのでは」と呆然とします。でも「人生は一回きり」。ようやく本心からやりたかったこと、園芸を始めるのです。ただ、どんなに好きで人に負けない腕を持っていても、世間では「趣味の範囲でしょ?」と片づけられてしまう。さてそこから彼女はどうするのか……。今までの人生、いったい何だったのかと揺れ動く心もじっくり描きたいと思いました。

「今度生まれたら」内館牧子・著 講談社

老後ならではの焦燥感から脱するには、どうしたらよいか。そのヒントとして、私は東日本大震災後に避難所で「相撲の話をして」と頼まれたときのことを思い出しました。子どものときに熱中した名勝負の数々、横綱審議委員として見聞きしたことなど、自分の経験や知識を皆さんに喜んでもらえたことが嬉しかったのです。自分のためだったことを、誰かのため、そして社会のためにと視野を広げていくことも、「(70)」からは大切な生き方かもしれません。

「今度生まれたら、この人とは結婚しない」という夏江のセリフには、男性読者からは「自分の妻がそう考えていたら恐ろしい」という反響が届いているそうですが、ずいぶん鈍感というかナイーブですね(笑)。ただ女性にとってのまさかの展開も描いていますので、妻の座にあぐらをかいていられないかもしれません(笑)。老境の暮らし方もふくめて、自分たちの世代がどう生きていくのか、これからも見つめていきたいと思います。