体の中からの信号だったのかもしれない

慶応義塾大学病院でガンの手術をしました。手術の時は当然全身麻酔をしますが、内視鏡検査の時とは違います。全身麻酔のオリエンテーリングがあり、DVDで脊髄に麻酔注射するところを見せられました。「全身麻酔が好き♡」みたいなことは言っていられない雰囲気がありました。おそらく手術で何時間もかかるので、麻酔も強力なものになるのでしょう。

手術の当日、手術室で麻酔科の医師が2人待っていました。ストレッチャーに乗せられ、脊髄に麻酔薬を入れる点滴の針を刺され、酸素吸入のマスクが付けられ、「麻酔を入れます」という医師の声が聞こえたかと思うと、スーッと意識がなくなりました。

気が付いたのは4時間後でした。看護師さんや美子ちゃんに見守られて、ベッドで寝ていました。時間の経過が感覚としてないので、ベッドにいるのも不思議だし、いつの間にか手術をされているのも不思議だし、本当にタイムトリップした感じがありました。

あとで聞くと、大腸のガンの部分を13センチ切ったそうです。幸い初期だったので転移もしていなくて、1週間後に退院しました。

結果的には、ぼくがフラフラしたことでガンが見付かったわけです。あのフラフラはなんだったのでしょうか。院長先生に聞くと、ガンの部分から出血があって、貧血でフラフラしたのではないかということでしたが、出血があるほどガンが進行していたわけでもありません。「ガンですよ」という、体の中からの信号だったのかもしれません。

こうして、初めての人間ドックは、ピロリ菌が発見されたり、ガンが発見されたりと大変な成果があり、ぼくの寿命を何年か延ばしてくれたと思います。

あれから14年、同じクリニックで胃と大腸の内視鏡検査を毎年受けています。全身麻酔で「一瞬の極楽浄土」に行くことが、ぼくの密かな楽しみになっています。

※次回配信は1月14日(木)の予定です

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