タイムスリップしたような感覚

内視鏡担当の先生が現れて挨拶されたのですが、先生はマスクをしているし、こちらは寝ているので顔はよく見えません。点滴ポールには先ほどの点滴がぶら下がり、ぼくの体の中に栄養分を送り込んでいます。先生は注射器を持って「では、お薬入ります」と言って、点滴に麻酔薬を入れました。すぐに指先が温かくなってきて、ものの4、5秒で眠りに落ちて行きました。そして、目が覚めたらもう検査が終わっていて、看護師さんに支えられ仮眠用のベッドに案内されました。

全身麻酔は初めてだったので、すごく不思議な体験でした。麻酔をしてから目が醒めるまで、わずか30分ぐらいではなかったかと思いますが、その間タイムスリップしたような感覚でした。夜寝るときは、熟睡しても朝起きた時に時間の経過を感じます。ところが麻酔の場合は、麻酔が効いている30分ほどの時間が全くなかったことになるのです。突然意識がなくなり、数秒後に目が覚めたという感覚です。

これは面白いと思いました。30分ぐらいでは面白くないですけど、10年ぐらい麻酔で眠っていれば、タイムトリップになるのではないでしょうか。まあ、過去には行くことができませんけど、いきなり10年後を見ることはできます。突然目の前の景色が10年後に変わるんですよ。やってみたいと思いませんか?

あるいは、5年間苦労することがわかっている場合、例えば、高利貸しから大金を借りて追いかけられているような時、麻酔で5年間タイムトリップすれば、相手が銀行や消費者金融やカード会社だったら逃れてチャラになります。個人から借金した場合はあと5年眠っていないとダメですが。

だったら5年間、海外にでも行って潜んでいればいいのではないか、という意見もあると思います。実際、そうしている人もいるはずですが、善良な人であれば借金が心の重荷になったり、いつ捕まるか心配したりで、眠れなくなる人もいるはずです。その点、全身麻酔はよく眠れます。というか、意識がないのですから、不安も心配もありません。