一度体験するとギャンブルがやめられなくなる

これが1回目の魂抜け現象で、記憶の中では一番インパクトの強い死の疑似体験だったように思います。それが洗礼となり、その後、パチンコ、賭け麻雀(非合法)、競馬、競輪、カジノ、チンチロリン(非合法)と、ギャンブル漬けの10年間を過ごすことになります。

その間に魂が抜けたことは何度もありますが、大勝ちしたこともあります。初めてやった競馬で370万円当てたり、ハワイのホテルでチンチロリンをやって1700万円勝ったこともあるのですが、快感ということで言えば、ボロボロに負けてもうダメだという状態から逆転する時の方が、快感度は数倍高いのです。マカオのリスボア(カジノ)で大小(サイコロを3つ振って出た目に賭けるルーレットのようなゲーム)でボロ負けしてホテルに戻り、夜中に気を取り直して再度リスボアに行き、大小で負けを取り戻して、なお数十万円プラスになった時の快感は忘れられません。嬉しくてホテルの部屋で踊っていました。

それはつまり、死んだ人間が生き返る時の快感と言えるのではないでしょうか。それはどんな快感にも勝るもので、それを一度体験するとギャンブルがやめられなくなるのです。

死者との共存・共生・共闘を理念とし、経産省前反原発テント広場で祈祷会をするJKS47(日本祈祷僧団四十七士)。筆者はサックスで参加(写真提供:末井さん)

自分の大切なモノ

3年ほど前、あるサイトの取材で「死の体験旅行」というものに参加したことがあります。会場は都内の大きなお寺の地下会議室で、夜7時からの始まりでした。受付で会費を払って会場に入ると、全員が壁に向かって座れるように机と椅子が並べられていました。自分の席に座ると、両隣は女性の方でした。30人ほどの参加者の3分の2ぐらいが女性だったと思います。

全員が席に着くと、照明が徐々に暗くなり、講師の方が「死の体験旅行」の成り立ちを話し始めました。このプログラムは、自分が病気になり、病気が進行していき、やがて命を終えていく物語を追体験するもので、ホスピスなどの死に関わる仕事をしている人のために、アメリカで作成されたものだそうです。

説明が終わると、暗記カードぐらいの大きさのカードが5枚ずつ配られ、そのカードに自分の大切なモノを書くように言われました。大切なモノというと思い付かないので、愛着のあるモノということにして、「パソコン」「サックス」「家」「自転車」「ぶら下がり健康器」と書きました。最後の「ぶら下がり健康器」は間抜けな感じがしましたが、その頃は腰が痛くなっていて、よくぶら下がっていたからです。