運命の1987年10月19日、ブラックマンデー

商品先物取引の仕組みを説明すると長くなるのでやめますが、例えば金(きん)に100万円の証拠金を投入すれば、1700万円分の金を買ったことになります。証拠金は金価格が下がった場合の損失補償金で、例えば金が1割上がったとしたら、170万円分の利益が加算され、その時点でやめれば270万円が手数料を引かれて返って来ます。(現在は金のレバレッジが最大70倍になっているようなので、100万円で7000万円の金を購入したことになります。)

ぼくは銀行から借金をして600万円の証拠金を入れていたので、1割上がれば1020万円儲かります。もしかしたら暴騰して5割ほど上がるのではないかなどと、上がることしか考えていませんでした。そして、そのチャンスがついに来たのです。

1987年10月19日のブラックマンデー、世界的株価大暴落の日です。営業マンから電話が掛かって来て、株がダメならこういう時はみんな金を買う、金が暴騰するからもっと買いませんかと言います。その電話で、ぼくはもう金が大暴騰するものと思い込んで、虚無など吹っ飛んでしまい、ものすごくハイな気分になって大騒ぎしていました。ところがその2日後、金が大暴落します。

要するに株をやっている人は、商品先物取引もやっていたのです。株の信用取引をやっていれば、下がった分だけ追加で資金を入れなくてはいけません。そのため、金などの商品先物を現金化して資金を作らなければなりません。

金が1割上がれば1020万円儲かりますけど、1割下がれば1020万円損をします。その時どのくらい下がったかは覚えていませんが、預けた600万はなくなり、さらに追加の資金が必要になってしまったのです。

このことを営業マンから電話で聞いた時、魂がスーッと抜けました。会社で仕事をしていたのですが、何をしているのか自分でもわからなくなりました。人から話し掛けられても、口がパクパク動くだけで言葉が出て来ないのです。まるで抜け殻です。会社にいるとみんなからヘンに思われるので、会社を出てゾンビのように町をウロウロ歩き回りました。