その都度魂が抜けたハズレ馬券。捨てられなくて今も持っている(写真提供:末井さん)
編集者で作家、そしてサックスプレイヤー、複数の顔を持つ末井昭さんが、72歳の今、コロナ禍中で「死」について考える連載「100歳まで生きてどうするんですか?」。前回の第2回で、全身麻酔のことを「死の疑似体験」と綴った末井さんだが、実はもう一つ「魂が抜ける」体験をしていて……

第2回●「〈一瞬の極楽浄土〉に行くことが、ぼくの密かな楽しみ」

ギャンブルは一切やったことがない僕が…

前回、全身麻酔で死の疑似体験をする話を書きましたが、ギャンブルでも同じような体験をすることが出来ます。

ぼくは1987年の春頃から商品先物取引というギャンブルをやっていました。商品先物取引はギャンブルではないと関係者は言うかもしれませんが、れっきとしたギャンブルだとぼくは思っています。

きっかけは、会社に来た営業マン(飛び込み営業というやつです)に勧められたからですが、営業マンはそれがギャンブルなどとはもちろん言いません。先物取引の仕組みと、イラン・イラク戦争で金(きん)が上がるとか、ドル安でアメリカは金本位制を採るかもしれないとか、ある事ない事まくし立て、金を買うのは今が絶好のチャンスだと勧めるので、ついつい騙されてその気になったのでした。

それまで、パチンコも麻雀も競馬も競輪もギャンブルは一切やったことがなく、株などの投資や投機もやったことがありませんでした。それなのになぜ? ということですが、多分虚無に襲われていたからではないかと思います。

その頃、『写真時代』という雑誌と並行して、少女向けの占いとファッションの雑誌を作っていたのですが、これが全く売れませんでした。10万部発行して9万部が返品になっていて、社長から「いつまでやるんだ?」と、即刻やめてもらいたいような口ぶりで言われていました。それに加えて、恋愛のことでも悩んでいて、憂うつな日々を送っていました。営業マンが言うように、ここで一気に何千万、ひょっとしたら何億ものお金が入って来れば会社も辞められるし、虚無も吹っ飛ぶと思ったのかもしれません。