我が家のボロ庭。猫はよく来る野良のキー坊(写真提供:末井さん)

最初の方は、捨ててもいいものが結構ありましたが、だんだんと迷うようになりました。やはり、捨てられないカードは人です。それでも仕方なく捨てる時は悲しい気持ちになります。

そして、最後に残ったのは妻でした。それは自分の中で、最初から決まっていたことかもしれませんが、自分の大事なものを捨てて行ったあとなので、妻を大事にしなければいけないという気持ちになりました。

この「死の体験旅行」を、参加する前はバカバカしいと思っていたところもあったのですが、講師の語りが真に迫っていることと、自分で大事なものを捨てて行くという行為で、参加する前とは気持ちが少し変わっていました。妻を大事にしなければいけないと思ったこともそうですが、妻だけでなく自分と関わりがある人は全て大事にしようと思いました。死が近付くと、そういう気持ちになるのかもしれません。

 

ハンバーガー?

プログラムが終わったら会場が明るくなり、端から順番に4人ずつが向かい合って感想を言い合います。ぼくのグループは女性2人、男性2人で、ぼく以外はみんな若い人でした。ぼくは初対面の人が苦手なので、アガってしまって何を話したかよく覚えていません。

最後は全員で、最後に残ったカードは何だったかを発表しました。一番多かったのは「母親」でした。たぶん半分ぐらいがそうだったと思います。「妻」と言った人は、僕を入れてたった2人でした。「夫」と言った人はゼロでした。独身の人も多かったと思いますが、案外夫婦仲は冷えているのかもしれません。

驚いたのは、ぼくの隣りにいた女性が「ハンバーガー」と答えたことでした。最初何を言っているのかわからなかったのですが、ハンバーガーが好きだから、何よりもハンバーガーがなくなるのがつらいということです。この人はいったい残りのカードに何を書いたのでしょうか。

「自分がやりたいこと」と答えた人もいました。それは質問事項ではないかと思ったのですが、考えてみれば自分のやりたいことが奪われるのはとてもつらいことです。そして思ったのは、自分にとって一番大切なものは、結局は自分ではないかということです。死が恐い本当の理由は、自分と永遠に別れなければならないということではないでしょうか。

 

第4回●「母親は30歳、父親は71歳でろくでもない死に方をした」

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