中国共産党と秘密結社「洪門」

中国共産党に協力した統戦工作については、たとえば台湾相手ならば民革や台盟、海外の知識人が相手ならば九三学社など、他の民主党派も担っている。だが、致公党の場合はもうひとつ大きな特徴がある。実は致公党はその成立経緯において、「洪門」(ホンメン、チャイニーズ・フリーメーソン)と呼ばれる、中国の伝統的な秘密結社をルーツに持っているのだ。

洪門について簡単に説明すれば、清朝時代の中期(18世紀)以降に勢力を伸ばした、独特の加入儀礼や仲間内だけで通じる専門用語・動作などを伝える結社組織(会党)である。洪門は特に福建省や広東省で盛んだったため、19世紀にはこれらの地域の出身者が多い華僑を通じて、北米や東南アジアのチャイナタウンにも拡大した

カナダ、バンクーバーのチャイナタウン内にある洪門の建物。カナダ洪門は1970年代に合法組織になっている。(2018年12月筆者撮影)

組織の性質は中国独特のものであり、いわばヤクザと生協と町内会とライオンズクラブと右翼団体を足して5で割ったような、多面的かつ複雑な顔を持っている(この5つの性質のうちどれが強いかは、地域や時代により異なる)。洪門の構成員はお互いに独特の仲間意識があるようだが、かといって政治的に一枚岩の組織とは言えず、活動内容の統一性もない。

致公党は、もともとこの洪門の一派である。洪門は過去、辛亥革命(1911年)の際に孫文に協力したものの、革命後に冷遇されたことで反国民党的な傾向を持ち、国共内戦の際に一部の組織が親国民党派と親共産党派に分裂した。後者の親共産党派の洪門が「中国致公党」の前身である。

致公党はその後、文革でいったん組織が壊滅したこともあり、おそらく党内で洪門の伝統的な儀礼を引き継ぐなどはしていないと思われるのだが、現在も統戦工作の際には「洪門の党」という顔を強く前面に出す。特に北米やフィリピンの華僑と交流する際には洪門ネットワークが使われることが多いようだ。

表現を変えれば、中国共産党は中華人民共和国の建国以来、秘密結社を政権内に取り込み、対外工作に活用してきたと言える。チャン・ツィイーが所属しているのは、実はこんなにも怪しげな政党だったのだ。