バッタは私たちのそばにじっとして
目を閉じ手を合わせ、声にならない声で必死に祈った。それきり、物音ひとつすることなく静まり返っていた。結局私は一睡もできず朝を迎えたが、母が起きて来てこんなことを言った。
「昨日、お父さんが夢に出て来てねえ、『よいよ(とっても)立派なお葬式をしてくれてありがとう』って言うとった」
「お母さん、昨日の夜中……」、そう聞きかけてやめた。母であるはずがない。母は持病があり手に力が入らず、あんなふうに素早く障子を開け閉めすることは不可能なのだ。
二人で作った陰膳をお供えしながら、父の遺影を見つめた。バッタは朝食をとる私たちのそばにいて、じっとしている。
私の心配をよそに母は気丈にふるまい、父の遺品を整理したいと言い出した。弔問客や電話の応対の間を縫うようにして、母の指示のもと捨てる物を袋に詰めていく。