障子が素早く開き、大きな音をたてて閉じた
その夜、母は寝室で、私は仏間で一人床に就いた。どうにも寝つけず、何となく仏壇を見てしまう。ぼんやりとした灯籠の灯りと父の遺影を見ていたら、抑えていた感情の線が切れて、涙が溢れた。胸の中で父に話しかけてみる。
「お父さん、もう一度だけ会いたい。もう一度だけでいいから」
胸が詰まって声が出ない。涙が溢れて止まらない。もう二度と会えないのだと思うとたえきれず、泣き声を上げてしまった。
その時だった。救急車のサイレンが聞こえた。はっと息が止まる。鼓動が激しくなり心臓が大きく波打つ。真夜中の2時過ぎ。ここは、人口2000人に満たない限界集落。病院もなく救急車がこのあたりを通ることは考えにくい。遠く近く鳴り響くように聞こえていたサイレンの音がぱたりとやみ、静かになったと思った瞬間、仏間と居間の間の障子が素早く50cmほど開き、大きな音をたてて閉じた。一瞬の出来事だった。
「もしかしてお父さん? お父さんなん?」。
正直なところ、背筋が寒くなるほど怖かった。全身から嫌な汗が噴き出している。「お父さん、ごめん。もしお父さんならそんな現れ方はせんといて。私怖がりやからムリ。お願い!」