岸本葉子さん
密を避けるために、楽しみにしていた月1回の句会に参加できなくなってしまったエッセイストの岸本葉子さん。刺激的な句会だったから、休止が続いて物足りなさを感じていたところ、「ネット句会」開催の知らせが。いったいどんな形で行われたのでしょうか?
※本稿は、岸本葉子『ふつうでない時をふつうに生きる』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

月に1回参加していた句会がある。公民館の一室に5名ほどで集まって、句を作り無記名で提出。好きな句を選んで評し合い、最後に誰の作かを言う。狭い部屋で長時間顔を突き合わせ、話したり句を書いた紙を手渡ししたり。感染を防ぐ上では避けるべき状況ばかりで、休止のやむなきに至った。

休止が続くと、物足りなくなる。その句会は刺激的で、集まってから題を15個決め「用意、ドン!」で作りはじめる。制限時間は45分。無茶な題がほとんどで、「憲」のようなおよそ俳句らしくない一字を詠み込めとか、五七五それぞれの頭の音を「は・て・し」とせよとか。季語も必ず入れるので相当苦しく、終わると汗をぐっしょりかいている。そのスリルが病みつきになるのである。

他の人も刺激を欲していたらしい。ついに自宅でメール句会をすることになった。方法は原始的だ。某日午後1時、とりまとめ役の人が題を全員に送信。2時までに作って返信し、一覧表にしてもらうことに。

制限時間は15分おまけされているが、不安だ。いつもは人が鉛筆を走らせる音や焦る息づかいなどが周囲に充満している。あの「場の力」なしに集中できるのか。提出用の紙に書きながら作るのが慣いとなっている。キーボードで打ち直すのにもたつきそう。

『ふつうでない時をふつうに生きる』(岸本葉子:著/中央公論新社)