四股を踏み、テッポウをして体調を整える

以来隠れ相撲ファンとして高校生活を送ったが、大学に進むと状況は一変し、相撲を語る女性たちに出会えた。当時、角界のプリンスと呼ばれた初代貴ノ花が活躍し、女性ファンが増えたことも要因だろう。私も大ファンだったが、ハンサム(当時はイケメンとは言わない)だからではない。貴ノ花の相撲に対する真摯な姿勢、細い体なのに驚異的な足腰の強さ、そしてドラマチックな相撲の取り口に魅了されたのである。

20歳を過ぎた私は、土曜は1人で国技館に出かけ、料金が安い最後方座席で見た。貴ノ花が支度部屋を出る時は1階のマス席の通路に入り込み、姿を拝む。何よりじかに見られて幸せだった。

就職活動では相撲雑誌を発行する出版社に真っ先に電話をした。記者になりたいという私に電話口の担当者は、「珍しいなあ、女の人がねえ。でも女性は支度部屋に入れないんだよ」と言う。私は力士が廻しを締めるのを見てはいけないという意味だととっさに思い、「支度部屋に入っても見ません」と宣言したが、担当者に大笑いされ、丁重に断られた。しかたなく別の業界の記者になったのだ。

男性を見る目も相撲の影響を受ける。食事の時、ひじを高く上げ箸を持つ男には脇が甘いと苛立ち、バタバタ歩く男には摺り足にしろ、と注意したくなる。誰もいない会社のトイレで、私は四股を踏み、テッポウをして体調を整える。結婚は無理だなあと思った。

20代からの相撲ファン仲間の女性とは今でも年賀状のやりとりが続いている。彼女は自分の親が亡くなった時の喪中はがきでも、相撲への意見を一言綴っており、悲しみを乗り越え相撲道を歩む姿に感銘を受けた。私も落ち込んでいる暇はない。11月場所で正代と朝乃山は休場し、予想は的中した。勘はまだ衰えていない。

近頃、体のあちこちが痛むが、まずは筋トレだ。来世では男に生まれ、大横綱への険しい道を歩みたい。だから大相撲は永遠に続き、日本相撲協会は健全で不滅であってほしいのだ。


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