トミーとなら素直になれる
すると今度は娘がトミーに向かって、「お姉ちゃんだって学校でいろいろ大変で疲れているんだよ」とニコニコしながら答えたのだ。はたから見たら、ばかばかしいと思われるだろうが、トミーが間に入ってくれると、娘たちは素直になれるらしい。
これがきっかけで私たちの会話にはたびたびトミーが登場するように。触れ合う時間が増えると愛情も増す。再び娘たちのベッドで寝かせ、私も学校へ出かける娘たちを喜ばせようと、玄関先でトミーの手を振って見送ったりした。吠えもせず、エサも食べず、散歩もさせなくていい。トミーは世話をする必要もお金もかからない愛犬のようだった。
数年後、次女が大学進学のために家を離れることになった。トミーがそばにいたら、心強いだろうけれど、それでは長女と私が寂しくなってしまう。考えた末、同じメーカーの同じ種類のクマのぬいぐるみをトミーの弟として次女にプレゼントした。
同種とはいえ、何せあれから20年近く経つ。新しいクマのぬいぐるみはトミーより一回り大きく、服もブルーのギンガムチェックのシャツと胸当てのついたズボンに様変わりしていた。目鼻の位置がトミーと少し違うが、やはり似ている。「ぎんじ」と名付けられたクマに、私は次女のことを頼んで送りだした。