秘境のイメージ復活
美子ちゃんと最初に八塔寺ふるさと村に行ったのは、1997年の春頃だったと思います。岡山駅でレンタカーを借りて、ぼくは運転免許がないので美子ちゃんに運転してもらって、山陽自動車道に入ると、和気インターチェンジまでわずか40分でした。そこから30分も行けば、ぼくが生まれた村に着きます。「それは秘境じゃないですよ」と言われそうですが、言い訳をすれば、ぼくの子ども時代には、村から和気までオートバイで1時間半ぐらいはかかっていました。和気から岡山までは、電車で1時間以上かかりました。道が整備されて、今は日本のどこに行っても、秘境なんかないのかもしれません。
和気のインターを出て、父親の葬式以来ご無沙汰していた親戚2軒の家に寄って挨拶して、「八塔寺ふるさと村」に向かいました。車の窓から見える山の景色は、子どもの頃と全く変わっていません。おそらく江戸時代から、いやはるか昔から、何も変わっていないのかもしれません。変わったのは道路と建造物です。
自転車で通っていた中学校は廃校になっていましたが、ちょっと失礼して中に入ってみると、当時のことをぼんやり思い出しました。ぼくはスポーツが苦手で、女の子ばかりの園芸部に入って、花壇に花を植えたりしていました。
途中もう1軒、従兄弟の家に寄って挨拶して、いよいよ「八塔寺ふるさと村」に入ります。といっても、ただカヤ葺きの家が数軒あるだけですが、観光ガイドに書いてあったように「遠い昔にかえったような」気分にはなります。今村昌平監督の映画『黒い雨』や、テレビドラマ『八ツ墓村』のロケ地にもなったようです。
20人ぐらいは優に泊まれる八塔寺山荘に着き、まだ陽が高いのでワラビ採りに行きました。自炊が出来るので、採ってきたワラビを煮ようということになったのですが、合わせる油揚げがありません。仕方がない、買いに行こうということで、ぼくが道案内して車で買いに行ったら、往復1時間半もかかりました。昔はこの道を自転車で買い物に行っていたんだよと言うと、美子ちゃんは驚いていました。秘境のイメージ復活です。
油揚げを買いに行く途中、「岡山国際サーキット」を通ったので、見学しようとしたのですが、美子ちゃんは興味がなかったし、入場料も高いのでやめました。それにしても、よくこんな大きい物をこんな山奥に作ったものだと感心しました。