『婦人公論』1936年3月号の表紙
同号で、吉行あぐりが読者からの「美容相談」に応えたコーナー。こて切れした(ヘアアイロンの使いすぎで切毛のできた)女性にむけて髪のお手入れ方法を伝授している

「女性を玩弄物視した封建的男性の身勝手な趣味」

この投稿は、「読者眼」に議論を巻き起こした。同年1月21日には、女性の投稿者による「パーマネント讃」という反論が掲載されている。彼女は「断髪諸嬢に告ぐ」という投稿が「あまりにも日本女性の心理と、時代を無視した概念的な偏見ではないでしょうか」と述べた後、パーマネントについて以下のように説明している。

女性たちの断髪は世界大戦〔第一次世界大戦〕当時不潔排除の必要から生まれたとききます。パーマネントもまた、あらゆる場面に活動的になった近代女性の必要と便宜から生まれ、流行したものだと信じます。

私共職業婦人は、朝の早い出勤に、一々髪を結うことは大変です。一度パーマネントをかけておけば、まさか永久(パーマネント)ではないまでも、二月や三月は髪の心配をしないですみます。(中略)

軽便で、能率的で、しかも女性らしさを失わない髪形があって、それに走ることが、なぜ親不孝になるのでしょう。男性がチョンマゲに裃の時代ならいざ知らず、女性へのみに黒髪の伝統を強要なさるのは、女性を玩弄物視した封建的男性の身勝手な趣味でしかありますまい。そんな男性は“対手(あいて)にせず”と黙殺するほかありません。

銃後の女性は万事身軽に、颯爽と働きたいものです。パーマネントはもはや、有閑マダムの独占物ではありません。

パーマネント批判をする男性を「女性を玩弄物視した封建的男性の身勝手な趣味」とこき下ろし、「そのような男性は“対手(あいて)にせず”と黙殺する」と投稿者は述べている。『読売新聞』編集部は、「係付記」として、同様の主旨の手紙がこれ以外に四人の男女から寄せられたと注を付けている。議論はさらに続き、編集部には「▽両者を客観的に批判し女性の自覚反省を促したもの六通▽パーマネント排撃論九通▽パーマネントもしくは断髪賛美論四通▽束髪もしくは適当な髪形を提唱したもの五通」が寄せられたという。