理想は綺麗さっぱりだけど

理想の死を思うことは、つまり「このように生きたい」と考えることでもあります。私にとっては、三味線ひとつで全国を旅した瞽女(ごぜ)の小林ハルさんが理想です。彼女との出会いは、人生観を変えるほどの衝撃を私にもたらしました。

瞽女の暮らしは過酷なものですが、精神ははるかな高みにある。自分自身と対話を続けてきた人だけが持つ気高さにほれ込んだ私は、本を一冊書きました(『鋼の女最後の瞽女・小林ハル』)。もし「素敵だな」と思わされる先輩が身近にいたら、その人を“お手本”にするのもいいと思います。

ただ、どんなに理想的な死を考えたとしても、いざそのとき、「悔いはない」と言える人はいないでしょう。綺麗さっぱりが理想ですけど、そうそううまくいきませんよ。やり残したことがあって当然。できない自分も認めて、ゆったり構えていればいいんです。

よりよく死ぬためにはどうすればよいか。やはり、一日一日を精いっぱいに生きることだと思うのです。私は相撲が好きでよく見ますが、力士が勝利後のインタビューで「一日一番ですから」と言うんですね。われわれにとっても同じ。今日というこの一番にどう取り組むか、に尽きます。

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