日々の家事で肩こりや腰痛になるのは、仕方のないことだと思っていませんか? でもそれは、体が持つ力をうまく引き出せていないだけかもしれません。人間が本来持つ力が出せる体の使い方を伝える「アレクサンダー・テクニーク」の専門教師・木野村朱美さんに、しんどくない家事メソッドを教えてもらいました(構成=山田真理 イラスト=本田佳世)

無意識下の《クセ》にこそ疲れの原因が潜む

普段通りに家事をしただけなのに、ぐったり疲れる。そんな悩みを感じることが増えていませんか。

ストレスや生活習慣など疲労の原因はさまざまですが、体の使い方もそのひとつ。使い方といっても多くの人は無意識で、何も考えず自然に動くことが自分にとってラクだと思っています。しかし、その無意識下の《クセ》にこそ疲れの原因が潜んでいるのです。

私が指導している「アレクサンダー・テクニーク」は、100年以上前にオーストラリアの俳優が考案した体の使い方の技術。舞台上で声が出なくなる不調に悩まされた彼は、発声時に首の後ろの筋肉が緊張するクセがあることに気づきました。そのクセを生み出す《力み》がなくなるよう取り組んだところ、より良い声がラクに出るようになったのです。

私自身は、約1万人の体の悩みにふれてきました。症状は人それぞれですが、共通して改善するのは《疲れ具合》です。実は、ほとんどの人が体について間違った思い込みをしています。特に「背骨の位置」をわかっていない人が多いのです。背中に触れたときに感じるデコボコが背骨だと思いがちですが、それは単なる突起にすぎません。実際の背骨は、もっと体の中心にあります。

「背骨は背中近くにある」と思い込むと、実は立っているだけで疲れてしまう。一般的に、「良い姿勢」は背筋をピンと伸ばすイメージがありますね。でもこの姿勢を取ろうとすると、後頭部から脚にかけての筋肉がびしっと緊張するのがわかるはず。20分も続けたらクタクタになってしまうでしょう。

体は本来、骨だけで立つようにできています。そして筋肉は首や背中、腰などを柔軟に「動かす」ためのものです。その筋肉が無理に体を「支える」役目をさせられるから、疲労が蓄積してしまう。

筋肉だけで体を支えていると、骨に十分な刺激が与えられないために骨粗しょう症を招く危険があります。また、股関節やひざ周辺の筋肉が硬く縮むことで軟骨が摩耗し、関節痛の原因になることも。クセがついた姿勢のまま背面の筋肉が衰えると、首が前に突き出しお腹ぽっこりの、「ばばくさい姿勢」になるリスクも見逃せません。

バランスの悪い姿勢では、日々の家事も必要以上にしんどくなってしまいます。現在はもちろん、将来にわたって「疲れない体」をつくるため、骨だけで支えられる姿勢に整えていきましょう。