「私は嫁がうちに来てくれるとき、『私の片腕になってほしい』と思いました。いまや嫁が2人いるから、両腕そろったわね。(笑)」(撮影:宮崎貢司)
落語家・初代林家三平さんの妻として、4人の母として、おかみとして、多くの人と深い人間関係を築きながら、さまざまな人生の転機を乗り越えてきた海老名香葉子さん。「情の貯蓄もしましょうね」と話す、その意味とは──(構成=山田真理 撮影=宮崎貢司)

100年もののぬか床を嫁にお任せして

今日はようこそおいでくださいました。まずは一服なさってくださいね。いまお茶を出したのが、次男(二代目林家三平さん)の嫁のさっちゃん(女優の国分佐智子さん)です。次男一家はすぐ近くに住んでいて、こうして私にお客様があるときは手伝いに来てくれるの。あとは週に1回、この家の書斎と洗面所、廊下、私の部屋の掃除をしてくれます。

さっちゃんは海外で暮らしていたこともあったから、こういう東京・下町の《江戸っ子》暮らしはびっくりすることも多かったと思います。「女優さんなので、落語家の家になじめるかしら」と心配もしましたが、意外と表に出るより裏方が性に合っていたようで。細かい仕事をこつこつきちんとこなしてくれる働き者です。

私が同居しているのは、長男(九代目林家正蔵さん)夫婦と孫3人。正蔵の嫁のゆっ子ちゃん(有希子さん)が家事はもちろん、お弟子の面倒や仕事関係のお付き合いまで「おかみ」としての務めをやってくれています。私は2、3年前から台所に立たなくなりましたし、100年もののぬか床もお任せしました。

ゆっ子ちゃんは、次女・泰葉の同級生の従妹だったんですよ。遊びに来ると「おばさま、ごきげんよう」と可愛らしく挨拶してくれるから、「なんておとなしくていい子なの」と思っていました。それがいまでは、私の主催してきた東京大空襲の行事「時忘れじの集い」で50人近い弟子たちをたばねて、「何やってんの、右よ右!」って。正蔵襲名のときに、石原軍団の専務さんにも「さすがの仕切りだ」とお褒めいただいたくらい、頑張ってくれていました。

うちは落語家という商売を先代から継いでいる家だから、当人たちの頑張りはもちろん、それを支える嫁姑がちゃんとしてないとダメ。そこの関係がぎくしゃくしていたら、家の中がまとまりつかないじゃないですか。私は嫁がうちに来てくれるとき、「私の片腕になってほしい」と思いました。戦力というと厳しい言い方になるかもしれないけれど、一緒に家を守ってくれる人がほしかった。いまや嫁が2人いるから、両腕そろったわね。(笑)