紹介した場面は物語の冒頭部分。この後主人公は、「加茂先生」にある依頼をもちかけられる。そしてその依頼は『空飛ぶ馬』が描く謎につながる。つまり加茂先生は、物語の導入につながる重要人物なのだ!
しかし(こう言ってはなんだが)加茂先生は50~60代のふつうの先生。特別美形とか、変人とかいうわけではない。単なる大学の先生だ。
だけど主人公にとって、加茂先生との出会いは重要な場面である。……さて、どうやって出会わせるか? そしてつつがなく先生に依頼を喋らせるか?
北村薫はものすごく小説が上手い人だと私は思う。そしてその手腕は、こんな、さらりと描いた主人公と加茂先生との出会いにも、がっつりと発揮されている。
漫画では重要キャラを大きく描くけれど
ちょっと話がずれるのだが。小さいころ読んでいた漫画雑誌で、「漫画の描き方」を教えてくれるコーナーがあった。題材は起承転結や漫画のコマ割り、キャラクターの作り方。「へえ、お話ってこうやって作られてるのか」と興味をそそられ読んだ。
なかでも印象的だった回がある。
「主役など、作中で重要なキャラがはじめて登場するシーンは、そのキャラを大きく描きましょう」
と教えられた回だ。
言われて、注目した。主人公がはじめて出てくるシーン。相手役が登場する場面。すると、たしかに、きまって大きいコマで、顔のアップや全身が描かれてる!
小学生ながらに納得した。なるほど、こうやって作画で「このキャラは重要人物ですよ」と伝えているのか!
じゃあ。翻って考えてみる。絵がない小説の場合はどうなんだろう。