トイレやお風呂も詠める
さて、再び家の中を見渡してみましょう。寝室でも玄関でも、たくさんの句材が見つかるはず。ちょっと意外に思われるかもしれませんが、トイレやお風呂場にも、俳句のタネがたくさんあります。
たとえば皆さん、どんな気持ちでシャワーを浴びていますか? 散歩して汗をかいた後なのか、あるいは涙も一緒に洗い流したいのか。そう考えると、シャワーも石鹸も句材として光って見えてきます。お風呂掃除をしている時に天井に蜘蛛を見つけたとか、トイレに飾った花がしおれているといった情景からも俳句は生まれます。
トイレといえば、流水音が流れる《音姫》が世に出た時は、俳人はみな飛びつきました(笑)。俳句をやっていると、面白い言葉を見つけたら、つい使ってみたくなるものです。
俳句を作り始めて何が変わるかと言うと、好奇心のアンテナが強くなってきます。先ほどの《音姫》の例もそうですけど、「あっ、この言葉、面白いな」と言葉を意識する機会が増え、目に触れるものや、何かの動き、人の表情など、いろいろなものに興味関心が湧くようになります。
音に対しても、「今の音、何?」と反応し、料理や花の香り、洗い立てのシーツの感触などにも敏感になる。つまり「視覚」「味覚」「触覚」「嗅覚」「聴覚」の五感が冴えてくるのです。
ちなみに触覚は、意識的に何かを触った時の感覚だけではありません。風が吹いている時の皮膚の感じや、一瞬、そばを何かがよぎった時の波動なども触覚です。
嗅覚に関しては、匂いそのものを捉えるだけではなく、そこから何か記憶が紐づけされる。沈丁花の香りがしたら、「玄関を出たとき嗅いだ匂いだ」とか……。
そうやって五感が情報の入り口だとわかるよう少しずつ自分の体をトレーニングしていくと、いたるところに材料があるのがわかります。すると脳がフル回転するようになり、勘も冴えてくるのです。