「戦前と空気が似てきている」
その旧満洲の話ですが、すぐそばで人が死んでいったとか、何度か直に聞いたことはあります。ただ戦後生まれの僕たちには、やはり実感としてはわからない。高校の日本史の授業も、明治維新くらいで時間切れになり、その時代のことは習っていませんし。
だから「僕らが日本に戻ったら、内地の食料が不足してみんな飢え死にすると言われて、帰国できなかった」と聞かされても、つい内地の人間の側に立って「しょうがない。共倒れになるだけだし」などと浅薄に考えていました。
ところが20代後半くらいのとき、父が実体験をもとに書いた小説『赤い月』を読んだり、映画化されたものを観て初めて、当事者たちの視点や国のありようを知った。それ以来、世界情勢などについての本もよく読むようになりました。
その父がこの10年ほどよく言っていたのが、「戦前と空気が似てきている」。共謀罪法は戦前の治安維持法と変わらないし、「一億総活躍」は「進め一億火の玉だ」のキャンペーンを思わせる、と。若い人にも、あの時代を二度と繰り返してはならないと伝えたいという気持ちが強かったと思います。