役を憑依させ動かすことができるトップ俳優たち

このチームになら、と映像化をお願いしてから1年と数ヵ月。コロナのせいもあり少しずれ込んだが、その間に何度も台本の確認をさせていただいたり、配役の報告をいただいたりと、ありがたいことばかりだった。何度も言うが、こういうことは稀なのだ。悪意や敬意の有無だけの問題ではない。ピンとくるかこないかの話だから。気になるところが同じでないと、善意の塊でも事故は起こる。

主演は吉田羊さんと國村隼さんに決まった。つまり、私が吉田羊さんで父が國村隼さん。私の最上位互換が吉田羊さんだと友人に言われたことがあり、気をよくして大笑いしたことがあった。人間を100種類に分類しても、まだ同じ箱には入るだろうと。

実際にお会いしてみると、本当に申し訳ございませんでしたと頭を下げたくなるほど、吉田羊さんは光り輝く美しい人だった。それでいて佇まいがとても自然で、特別だが特別とは感じさせない、圧のない人物だ。その吉田羊さんが、周囲が手を叩いて喜ぶほど、容姿を私に似せてくれた。

國村隼さんは父よりずっと厳格なイメージだったが、吉田羊さん同様、驚くほど父と同じ軽妙な人物に化けていた。役を憑依させ動かすことができるトップ俳優たちの凄まじさに身が震えた。

原作にはないラジオ番組の場面がふんだんに盛り込まれており、私はとても気に入っている。こんな形でリスナーに恩返しができるとは思ってもみなかった。

現実とリンクする場面が多いため虚実の境目が曖昧だが、これは紛れもなく吉田羊さん演じる蒲原トキコと、國村隼さん演じる父親、蒲原哲也の物語になるだろう。二人の絆が描かれた初回放送を観て、私の家の話が空高く、力強く羽ばたいていく予感を覚えた。


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年齢を重ねただけで、誰もがしなやかな大人の女になれるわけじゃない。思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ。「私の私による私のためのオバさん宣言」「ありもの恨み」……疲れた心にじんわりしみるエッセイ66篇