ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は、『生きるとか死ぬとか父親とか』の映像化について。スーさんが見た、ドラマの現場とは(文=ジェーン・スー イラスト=川原瑞丸)
物語が羽ばたいて
2018年に刊行された拙著『生きるとか死ぬとか父親とか』を原作にしたドラマが、4月からテレビ東京でスタートした〔編集部注:現在は放送終了〕。父ひとり子ひとりの限界家族、つまりわが家の話。父娘のごく私的な四方山話をできるだけ正直に綴った本が映像化されるなんて、人生なにが起こるかわからない。
いや、正直に言えば、「ドラマや映画になったらいいのにな」と、淡い期待は抱いていた。小説ではなくエッセイの類なので、エピソードの羅列ばかりで物語としての強度は弱い。しかし、われながらよく書けた、と当時は思ったのだ。
「よく書けた」には2つの意味がある。「ベストを尽くした」と、「よくこんな恥ずかしい話を書いたな」だ。事前にやんわりと許諾はとったものの、父のきわどい私生活についても赤裸々に綴った。よっぽど信頼できる人たちにでなければ、映像化は任せられないとも思っていた。まだ話もきていないうちからそんなことを考えていたのだから、私もしょっている。
出版から1年経ち、もう話はないだろうなと肩を落としていたところに、とてもよい話がきた。制作陣にお会いすると、どなたも熱心に、丁寧に、原作の意図を理解してくださっている。著名作家でもない私のことも大変尊重してくださる。こういうことは稀だ。