他人事に感じた東大進学

なお、この段階で春佳さんの「東大合格」を予感している人は皆無だった。なぜなら当時、聖マリア女学院中学の偏差値は30台。聖マリアからは東大に進学した人は、学校創立60年を超える歴史の中で1人もいなかったからである。

聖マリアには、キリスト教系の大学を中心に推薦枠が豊富で、一定の成績を残せば上智大や南山大などの大学に試験なしで入ることができた。だから、「上智で英語の勉強をしよう」というのが入学してからの、おおよその目標だった。

しかし、中学3年生の頃、数学に興味を持ち始めた。春佳さんは担任の教師に「私、最近、数学が好きになってきたんです」と理系の大学に進学するのもありではないかと相談した。すると、教師は「ひょっとしていけるんじゃないの」という感じでこう返答した。

「じゃあ、東大にしたら?」
 

『ドラゴン桜2』(著:三田紀房/講談社) 第10巻「74限 嘘と真実」より。(C)三田紀房/コルク

これまで国公立大に進学する人はいたが、そのほとんどは推薦(学校型推薦)や AO枠(総合型選抜)。一般受験をして学力で突破しようとする人はかなり珍しい。まして、東大を志望する者など1人も現れなかった。だから、春佳さんが、担任の口から出た「東大」に、「へー、東大ねぇ」と全くの他人ごとでピンとこなかったのも無理はない。