ミツバチは多数のハチがいっせいに羽を動かして蜜房の換気をする。扁虫類は、太陽の紫外線から身を守るために、固まって1匹あたりの体表面積を小さくする。動物の学習速度も、集団をなしているときのほうが速いことが知られている。人間でも家庭教師より、学校のほうが学習効果があがるのである。
植物の種子をまくのでも、野菜の種子は巣まきといって5、6粒ずつまとめてまかれる。1粒ずつばらすより、そのほうが成育がよいからである。
引っ越しのチエ
動物は適正密度を保つために、さまざまの手段を講じている。過密になったときに、集団自殺やとも食いをしたり、成長速度、生殖能力を遅らせるというのもその一つの手段だが、手っとり早いのは、引っ越しである。
京都大学教授森下正明氏(当時)は、いくつかの池がならんでいる場所での、ヒメアメンボウの繁殖を観察した。ヒメアメンボウは、まず最も生活条件のよい池の、最も生活条件のよい場所に住みつく。そこが一杯になってくると、もう少し条件の悪い場所に住むものが出てくる。それもある密度を越えると、別のより条件の悪い池へ移っていく。
森下氏は、またアリジゴクでこんな実験もしている。アリジゴクは一般に細かい砂地を好む。そこで、半分は細かい砂、半分は粗い砂を入れた箱を用意して、そこにアリジゴクを放ってやる。はじめの数匹は例外なしに細砂区にいって住みつく。ところが、細砂区の住民数がある程度以上にふえると、こんどは粗砂区に住むようになる。
大都市周辺の人家の混み具合いと比べてみると面白い。他の条件がどんなによくても、過密状態であることは、住み場所としての価値を減ずるのである。
※本稿は、立花隆『新装版 思考の技術――エコロジー的発想のすすめ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
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