作家・立花隆氏
「知の巨人」として知られる作家の立花隆さんが、4月30日、急性冠症候群のため亡くなった。享年80。代表作は『田中角栄研究』や、雑誌『中央公論』の連載を基にした『宇宙からの帰還』『脳死』など。実は、50年前のデビュー作『思考の技術』の中で、立花さんはエコロジー(生態学)の視点から「過密も有害、過疎も有害」と書いている。それは、新型コロナウイルスの感染拡大によって、「密」にならない生活をするよう強いられている今だからこそ響く内容だーー

似たもの同士は手ごわいライバル

「ガウゼの仮説」と呼ばれている法則がある。ロシアの生物学者G・ガウゼが、同じ培養液中で2種のゾウリムシを繁殖させようとしたところ、どうしても成功しなかった。必ず1種類は絶滅し、1種類だけが残るのである。このことから、属を同じくするか、属はちがっても生態的地位の似かよった2種類の生物は同時に同じ場所には住めないという仮説をガウゼは立てたのである。その後の研究によって、この仮説が必ずしも成りたたない場合があることが知られている。

しかし、少なくとも生物間では近縁の種の間ほど激しい競争が展開されるというのは事実である。考えてみれば、これは当然といえる。競争が成立するのは、競争者の間に同じ土俵が存在する場合に限られる。生物の場合でいえば、食物と住み場所が抵触しなければ、別に競争しなくてもよいわけである。

動物たちの間には、複雑な食物連鎖の網の目があって、無用な競争はうまく回避されている。なかで人間だけは、やたらにいろんな食物に手を出すので、さまざまの動物と競争になる。そして、もともとその食物を食していた動物をすべて、害虫、害獣扱いするのだから、動物たちにしてみれば、迷惑な話といえよう。

人間をのぞけば、動物たちはそれぞれ特有の食物を食べ、かつ移動の自由を持っているから、競争をあまりしないで共存することができる。ところが植物となると話は別である。移動の自由を持たない。そしてどの植物も地中から養分を吸いあげ、太陽光線を受けて同化作用を営もうとする。そこで、植物界では最もきびしい競争が展開されていく。植物の中には、競争に勝つために、ある種の有害物質を出して、他の植物の成長を阻害するものもあるという。