イラスト:東久世
ギリギリの人数で働く職場に、新人のパート社員が入ってきた。大まかな仕事の内容はわかっているという彼女に、部員一同は救世主と期待した。ところが、メモは取らず、コピーも取れず、電話にもまともに出られない。主張ばかり強い彼女の試用期間が終わりを迎えたとき、部長からの意外な一言が……

メモを取らず、主張だけは激しい

私の勤める百貨店の事務オフィスに、新人のパート社員が入ってきた。チームリーダーの話によると、彼女の年齢は40歳。同じ会社の別店舗に勤めていたこともあり、大まかな仕事の内容はわかっているという。当時はギリギリの人数で働いていたため、私も含めパートの仲間たちは、彼女の入社をとても喜んだ。

仕事内容は前日の売り上げをチェックすること。それが終わると、庶務的な作業も担う。なかなかハードだったが、皆、責任感を持って働いており、人間関係も良好。誰もがどうすればよりスムーズに作業が進められるかを考え工夫するのが常で、忙しくても笑い声が絶えない職場だった。

新人が入社し、私たちはいくつかの仕事を分担して、彼女に教えることに。ところが、教えると「はい」と返事はするものの、メモを取らない。全部覚えているのか? と思い、教えた箇所について質問してみると答えられない。「メモを取ってくださいね」と言うと、しぶしぶ取り始める。

メモを取らず、記憶もしない新人に仕事ができるはずもない。1ヵ月たっても、入った頃と変わらず、またそのことを恥じるでもなく、わからない仕事や、やりたくない作業は「できません」と言って私たちに押し付けていた。

そんなある日のこと。「私のホチキスがなくなっています」と彼女が騒ぎ出した。誰かが盗んだとでもいうのか。それぞれが自分用に備品を持っているのに盗むわけがない。あきれていると、「こんな引き出しでは、何をされるかわかりません。鍵付きにしてください」とわめき出す。

貴重品はロッカーに入れることになっているし、鍵の付いている引き出しなどない。そう伝えると、ブツブツと文句を言う。挙げ句の果てには、自分用の文具を買ってきて名前を書き、「これでなくなったら、犯罪ですから」と、鼻息を荒くした。