〈集団いじめ〉ととらえられ
不満が募っていくなか、彼女の試用期間が終わろうとしていた。辞めさせるなら今しかない。この惨状を同じ部屋で働く上司である部長は見ているはずだ。以前のように円滑に仕事を進めていきたい。それが私たちの切なる願いなのだ。
しかしある日のこと、新人が席を外した時、突然、部長から皆に招集がかかった。集まった私たちに、彼から厳しい声が。「パワハラをしている人間は、それがパワハラだと気づいていない。君たちは集団で新人をいじめて、恥ずかしくないのか!」。彼女が不在の時は、私たちは以前のように和やかな雰囲気で仕事ができるが、彼女が加わると、緊張とどんよりとした空気が漂う。部長はそれを〈集団いじめ〉ととらえていたのだ。
実際がどうであれ、被害者の証言があればパワハラは成立してしまう。新人にキレられ、威嚇されていたのは私たちだ。ずっと、我慢してきたのに。さらに部長は、「自分たちの給料が、どこから出ているのか考えたことがあるのか!」とまで言い出した。私たちは新人の分まで働いているというのに、当の新人は、仕事をしなくても、同じ給料をもらっている。彼の言葉は、彼女にこそ言うべきだろう。一方的な物言いに、私たちは黙って聞いているしかなかった。
戻ってきた彼女がニヤリと笑う。それからは当然のごとく、電話の対応を周りの人に押し付けるようになった。もちろん注意したいのだが、部長の視線が気になって何も言えない。
被害者だった私たちは、いつの間にか加害者になっていた。もう、新人に間違いを指摘することもできない。モヤモヤとした思いが膨らんでいく。
次の日、少し遠方まで昼食を買いに行った。できるだけ職場から離れたい。通りかかったファミレスに目をやると、仲良く肩を並べて話す部長と彼女の姿が。そうか、そういうことだったのか。
脱力感とともに、これからのことを考えた。権力者である部長を味方につけた新人は、ますます好き勝手をするだろう。彼女に対抗する手段を持たない私は、思わず求人誌を手に取っていた。