85万円をかけて手に入れたエレガントな自分

薄毛に悩んでいる女性も多い。武田律子さん(70歳・主婦)もその一人。もともと頭髪にコシがなく、ペタンとしてしまいがちだったが、60歳を超えた頃から抜け毛が加わり、つむじが気になり始めたそうだ。

「抜け毛予防のシャンプーを使ったり、美容院で頭皮のマッサージを受けたりするようにしたのですが、お金がかかるばかりで、どうにも効果が実感できなくて。それで、手っ取り早く悩みを解消できるヘアウィッグが気になりだしたんです」

興味を持ったら止められない性格の武田さんは、ウィッグを取り扱っている百貨店に足を運んだ。店員に勧められるままいくつか試着し、人毛100パーセントの部分ウィッグをオーダーする。お値段なんと70万円! かなり高価だが、ためらいはなかったという。

「実物を見たら、どうしてもほしくなっちゃったの。だって、装着した途端にエレガントな女性に早変わりしちゃうんですから。心がウキウキするでしょう」

どこへ行くにも着けていたお気に入りのウィッグだが、ある日、ちょっとした問題が生じる。白髪染めをしたら、髪の色が微妙に変わったのか、ウィッグとしっくりこなくなってしまったのだ。

でも、一度手に入れたウキウキ感とエレガントに変わった自分を忘れることができなかった。そこで2つ目の部分ウィッグを10万円ほどで購入。ところがオーダーではない既製品だったせいか、頭にフィットせず、あっという間にお蔵入りとなる。

そこで、続けて買った3つ目の部分ウィッグはフィット感にこだわった。お値段は5万円。手ごろな価格だけあって、人工毛の割合が多いため不自然なつやがあるのが気に入らず、次第に使わなくなってしまった。現在は4つ目を物色中だ。

「だって堂々と人に会えますし、これ、一度使ったらもうやめられません。週に1回通っているコーラスクラブの仲間にも、素敵だって褒められますし……。別に隠すことないでしょ。老眼になったら老眼鏡をかけるのとどこが違うんです?」

日本では“ありのまま”がよいとされる傾向が強い。そんな価値観に縛られることなく生きる、彼女たちの明るい笑顔がとても印象的だった。