お互いにエールを送り合いながら
辻村 大きな賞を受賞した後、新作を書く時にプレッシャーもあると思います。私も直木賞をいただいた際、受賞作がそれまで書いていた青春小説とは作風が違ったために、読者の方から、「今までのような作品はもう書かないんですか?」と心配されました。当時は焦りもあったように思うのですが、町田さんはどうですか?
町田 これまでとは違う緊張感があります。今は母と娘をテーマにした長編を書いているのですが、「これじゃダメだ」と感じ、全面的に書き直していて。
辻村 全部! すごい。読ませていただくのを楽しみにしています。
町田 そうそう、今日はお聞きたいことがあって。今度、文庫版を出される『青空と逃げる』で、大分県の別府が出てきますよね。私も『52ヘルツ~』で別府を舞台にしたので、風景を思い浮かべながら読みました。何日くらい取材してあの場面を書かれたのですか?
辻村 2日です。弾丸取材でした。
町田 たった2日間で! まるで主人公たちとともに暮らしているような気持ちになりました。
辻村 実は、あの作品を書いている時に下の子を妊娠していたので、実際に取材に行けたのは大分だけなんですよ。そのほかにも舞台にした高知県の四万十や宮城県の仙台は、学生時代に旅行で行った時の記憶を掘り起こして。わずかな時間でも行ったことがある土地なら、そこで見た空の色なども思い浮かべることができますから。
町田 尊敬、の一言です。私は作家としてスタートしたばかり。辻村さんからまた「おめでとう」と言っていただけるように頑張りますので、待っていてください。
辻村 もちろんですよ! 私も、2020年コロナ禍の世界を生きる高校生たちを主人公にした小説を準備中です。町田さんがお住まいの地域の新聞に連載します。小説を通じてお互いに繋がれるのが、この仕事の素晴らしいところですよね。