アン、ハイジ、ジュディ。読者を挑発する主人公たち

たとえば『赤毛のアン』の主人公アンは、ものすごく饒舌だったり態度が芝居がかっていたりと、大人の目から見ればかなりおかしな子どもです。それを本書では、孤児だった彼女が必死で自分の居場所を獲得しようとする、「就活小説」と読み解きました。

斎藤美奈子『挑発する少女小説』河出新書 946円

 

『ハイジ』はアニメの牧歌的なイメージとは違い、10歳に満たない少女がアルプスの山奥から大都会へ出稼ぎに行くサバイバル物語。『ふたりのロッテ』では、親の離婚で離れ離れになった双子が一緒に暮らす権利を求めて行動しますが、親の支配下にあった多くの子どもに勇気を与えたかもしれません。

実は『あしながおじさん』のラストで、主人公のジュディがお金持ちの「おじさん」と結婚して、自分の夢をあきらめてしまうことに少女時代の私はガッカリしました。けれども、親友のサリーが孤児院の院長になるまでを描く続編を併せて読み返すと、ジュディの選択は「孤児院の改革に乗り出すためだった」とも解釈できる。20世紀のシンデレラは、結婚も人生の切り札として鮮やかに使ってみせていたのです。

少女小説の主人公は、「子どもだからって、女だからって、見くびらないでよね。あなたも見くびられちゃダメよ」と読者を挑発します。

逆境や理不尽に立ち向かったり敗北したりしながら、個人としての輝きを見せてくれた主人公たち。それらの物語を愛し、生きる力を受け取った読者たち。その両方を全肯定したいという動機で書き進めた本書を、かつて少女だった皆さんも楽しんでくだされば幸いです。