今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『薬を食う女たち』(五所純子著/河出書房新社)。評者は渡邊十絲子さんです。
すり抜けるように命をつなぐ人たちを排除できるか
ノンフィクションとフィクションのすきまにぐいぐい根を張ろうとする、生命力の強い植物みたいな文章だ。文体はノンフィクションだが、主人公の心の声がなまなましく書かれている。他者になりきってその内面を書くのはノンフィクションでは禁じ手なので、これまでインタビュー記事を書いてきた著者の中にはアウトプットできない未消化物がたまっていたのだろう。それをこうして昇華させたのだと思う。
日常が薬物とともにある女たちが各章の主人公で、みなどこか似た雰囲気である。一言でいえば「流されてきた人」だ。
信頼できる互助組織が売春グループ以外にひとつもなかった人、結婚以外に幸福をもたらしてくれる形なんてないと信じていたのに、夫も子どもも少しも愛せない人。彼女らは、人生には選択肢があるということを知らない。自分の生活も、命も、紙切れのように軽い。それでもなんとか生きようとするとき、人は面倒くさい自意識を溶かしてくれるものを必要とする。それが薬物だ。
ここに登場する女たちは、考え方がきまじめだから薬物を欲したのだし、クスリに酔うことでその日を生き延びた。たとえ警察につかまっても、人に軽蔑されても、そんな方法で一日一日をかろうじてすり抜けるように命をつなぐ人が、この世には存在する。あなたはそういう人たちを拒絶したり排除したりできますかと、この本は問うている。
薬物に頼る人を、快楽におぼれる自堕落な人間という類型にあてはめないでじっと見る。好奇心ではない。薬物礼讃でもない。自分とよく似た、でも自分より少し不運だった人間たちから目をそらさないことが、取材者としての責任のとりかたなのだと思う。