「〈あの世〉と〈この世〉の境には、本当に三途の川みたいなものが横たわっているのかもしれない」と川奈さんは言う」(イラスト:網中いづる)

彼でも自分でもない男の声が割り込んで

最初は自分の経験をもとに書いていたんですが、それだけではやがてネタが尽きてしまい、17年からSNS上で、皆さんの体験を募集するように。多い時は、月に20件くらい応募が来るようになりました。近い方は直接お会いし、遠方の方は電話やテレビ電話などでお話を伺います。今までにのべ5000件くらいご連絡いただいたでしょうか。数が増えるのに従い、傾向も見えてきました。

昔からの怪談でおなじみの井戸や墓場は、今はほとんど出てきません。心霊スポットとしてメディアが取り上げているような事故多発スポットや廃病院、古戦場は、のんきな若者グループが肝試しに行ってひどい目に遭う、といったケースが多いです。

圧倒的多数は、自宅や通勤・通学路、職場など、自分の生活圏での出来事。たとえば埼玉県某所にお住まいの方が、「自転車通勤中に国道沿いで、黒い影のようなものが、ある会社のドアを開けようとするのを毎日見かける」と。

そこでその方と一緒に現地に行くと、工場か倉庫のような大きな平屋の建物が建っています。スマホで動画を撮影しながら、「ここは工場ではなくてオフィスなんですね?」と質問すると、彼の声でも自分の声でもない男の人の声が突然割り込んできて、「はい」と返事をしました。「えっ?」と思ってあたりを見回しても、私たち以外、誰もいません。あとで動画を見直したら、オーブと呼ばれる緑色の光が飛び回っていました。