実際にあった出来事を緻密に調査・取材して書きあげる怪談が人気の作家・川奈まり子さん。幼い頃の不思議な体験で摩訶不思議な世界に興味を持ち、これまで5000件もの取材を積み重ねてきました。さまざまな現場に赴き、見えてきた真理とは──(構成=篠藤ゆり 撮影=本社写真部)
摩訶不思議なものに惹かれるように
私は「ルポルタージュ怪談」という手法で、怪談を書いています。実際に怖い経験をされた方からお話を伺い、場合によっては現地で取材もし、資料でさらに調べて作品にしていく。資料の中には書籍もあれば、古い雑誌や新聞、古文書や古写真に加え、江戸時代の絵草紙や浮世絵なども。絵草紙や浮世絵には摩訶不思議なものや、昔はあったけれど今はなくなっている景色などが描かれているので参考になるのです。
怪談やホラーを書き始めたのは、2008年頃。フィクションから始め、やがて主に自分の経験や記憶をもとに書くようになりました。たとえば、私は東京・八王子出身ですが、子どもの頃、鑓水(やりみず)地区の道了堂(どうりょうどう)で奇妙なきょうだいと遊んだ記憶があります。ここは昔、殺人事件の現場になったこともあり、今では心霊スポットとしても知られる場所です。
小学4年生になったばかりのある日、友人3人と道了堂で遊んでいた私は、同い年くらいの女の子と、5~6歳くらいの男の子と出会い、6人で隠れ鬼をしたのです。最初は楽しかった。でも、ほかに出口のないお堂に飛び込んだ二人を追いかけたら、中には誰もいなくて。あれ、変だな?
そのあと、真っ暗な押し入れにひとりで隠れたのですが、なんだか隣に誰か座っているような気配を感じ、恐るおそる横を見たら女の子がいて、私に向かって「みーつけた」と――。慌てて外に転がり出たら、私に驚いた友人がお堂の床板を踏みぬいて怪我をしてしまい、私たちは凍るような恐怖を背筋に感じながら言葉少なに帰りました。あの子たちは、この世の存在ではなかったのかも――。